ポジショントークの話

ポジショントークというものがありますね。

それぞれの立場から自分に都合のよいこと、自分に有利になるようなことを言うこと

ポジショントーク|グロービス経営大学院

少し前に話題になったビッグモーターという中古車販売・買取の会社があります。

破損していない箇所を故意に破損させる行為として、ヘッドライトのカバーを割る、ドライバーで車体をひっかく、靴下に入れたゴルフボールを振り回して車をたたき雹害で受けた傷を拡大させる事例などが確認された。

この、靴下にゴルフボールを入れて車体を叩く、というのが衝撃的で記憶に残っています。

なぜそういう行動をとったのかというと、端的に言えば上から苛烈なノルマを課されていたからのようです。

ちょっと思考実験

今は報告書などが公開されているので、社内がどういう状況であったのか知ることができますね。あれだけ問題として取り上げられたので既に何かしらの改善策なども行われているのではないかと思いますが、仮に全く改善していない旧来のままの状態だとします。

で、私たちはここがそういう会社だと知っているとして、車の様子を見てもらいに持っていったら整備士から「5 箇所、修理が必要です」と言われたとします。さて、その言葉をどう受け止めるでしょうか。

本当か?修理の必要がないのにあると言っているだけではないか? と疑念を抱きますよね。

そういう状況(=苛烈なノルマあり)におかれている整備士は自分の利益になるようにポジショントークをしている可能性がありますからね。

知らない場合

では、ニュースで取り上げられたりもせず、報告書もなく、そういった情報が公開されていないとします。

その場合はどうでしょう。「5 箇所、修理が必要です」と言われたら、そうなのかと納得するかもしれません。客の立場ではノルマの有無などはわかりませんからね。

しかし、例えば以下のような要素があったとしたら話は変わってきます。

  • 店長、店員の柄が悪そう
  • 店舗内で怒号が飛び交っている
  • 店員の表情が無気力、憔悴しきっている
  • 売り込みが必死でしつこい

これらは私がパっと思いついたものを挙げただけですが、

もし「この会社はノルマが厳しく、でたらめなことをして客に損害を与えている」ということを公開情報としては知らない場合であっても、上記のような部分的な情報をつなぎ合わせて考えることで、

  • 「あこぎな商売をしているのかもしれない」
  • 「ノルマが厳しいのかもしれない」

といったことを類推できるでしょう。

そういう類推・推察ができれば、先の例と同様に整備士が言っていることはポジショントークかもしれないと疑念を持つことが可能ですよね。

難しくする要素

ここまでの例は、比較的単純な話なので読まれている方も「それはそうだね」と感じられると思います。

実際はそう簡単にはいかないケースもあります。

  • 専門家との知識の差
    • (もし、自分は車のことが全くわからないとしたら……)
  • 他者からの評価
    • (もし、車雑誌で「満足度ナンバーワン!」などと取り上げられていたら……)
  • 認知バイアス
    • (もし、祖父の代から車の整備でお世話になっているとしたら……)
  • 社会的な圧力
    • (もし、整備士に従うのが当たり前、異を唱えるのは失礼だという風潮があったら……)

上記のような要素があると、「部分的な情報をつなぎ合わせて、批判的に考える」という態度を取りにくくなり、「相手のポジショントークを認識する」ことの難易度が高くなるかもしれません。

そのあたりも踏まえた上で、仮に上記のような要素があったとしても自分の頭で考えたり、自分の頭で考えている人の話を調べたりすることで、「あれ、実はこれもポジショントークじゃないか」と思い至ることがあります。

逆向きに考える

また逆に、ちょっと普通の感覚では信じられないような行動・言動を見たときに、その人のパーソナリティ(性格・性質)に原因を求めるのではなく、その人はそういう行動・言動によって何かしらの利益を得られるポジションにあるのだろう、と判断することができます。

(ちなみに「利益を得られる」というのは「損失を回避できる」という場合も含みます)

別の言い方をすると、その人はそういう行動・言動をするインセンティブがあるのだろう、ということです。

インセンティブ(英: incentive)は、人々の意思決定や行動を変化させるような要因、報酬のことをいう。誘因とも訳される。
インセンティブ (経済学) - Wikipedia)

整備士の例で言えば、「靴下にゴルフボールを入れて車体を叩く」というのは普通ではない行動ですが、それはその整備士がとんでもない無法者だから、という理由ではなく、

そうすることでノルマ達成に近づく(店長から激怒されたり暴行されたりする状況を回避できる)という利益が得られる、そういうポジションにあるからゴルフボール靴下を振り回しているのだ、と考えられるのです。

仮に、ある整備工場がとても商売熱心だったとしても、普通の真っ当な感覚であれば、売上を伸ばすためには細かい不調も見逃さないように熱心に検査するとか、そういう方向に向かうでしょう。

普通じゃない行動にはそれなりの理由があると推察した方がよさそうです。

ポジショントークインセンティブの関係

つまり、インセンティブポジショントークの背後にある動機付け要因であり、ポジショントークはそのインセンティブを実現する手段である、と言えるようです。